2002/11/15

[RLC021115]ルビュ言語文化 第39号

[2002-11-15] Revue Langue et Culture N.039
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[ 週刊 ] ル ビ ュ 言 語 文 化 (RLC) ── 第39号 ──

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■ 39号 もくじ ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
◇研究室より:津田和男さんの講演「教育としての日本語教育」をめぐって
◇おしらせ:来週より掲示板復活,ほか
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■ 研究室より ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
津田和男さんの講演「教育としての日本語教育」をめぐって
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先週,学内の研究会に国連高校(ニューヨーク)の津田知男さんをお招きし,
「教育としての日本語教育」という話を聞いた。

アメリカのナショナルスタンダードの枠組みから,教育としての Big Picture
を描くことの必要性と,アメリカでの日本語教育の歴史および現状を語られ,
Fact(事実)から Topic(活動)そして concept(概念)という一連の流れ
の中で,OPI批判がさりげなく隠し味として添えられていたのは興味深かった。

津田さんの実践は,_Kisetsu_(『季節』)という日本語教科書作成で実現さ
れているが,「出会い」から「気づき」へとつづくコンセプトで,文型を極
力押さえて,語彙を豊富に提示する方法は,アメリカの高校生の表現意識を
引き出すために有効だろう。

「教育」という Big Picture を実現するためには「考える人間」を育てなけ
ればならない,という津田さんの主張が熱く伝わってきた。

ここに,参加したある大学院生の感想から引用しよう。

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まず,「総合」や当言語文化教育研究室などで考えている日本語教育(言語
教育)が目指すものと,津田先生の考え方そして実践にはとてもリンクする
部分があると感じ,「教育の流れ」自体がやはり変わってきているのだ!と
いう確信を持ちました。
変わってきている,というよりは,本当はそれが本来人間のあるべき姿の教
育で,“その原点に戻っている流れ”が出てきているのだということです。
つまり,「教育の流れ」が,「生身の人間を相手にしている」という部分を
やっと思い出しているのではないか,と感じたのです。

「生身の人間」には,個人ひとりひとりが彼らを取巻く社会環境があり,彼
らは,その人間社会の中で,他者と接し,関係を築き,具体的なコミュニケ
ーションをしながら生きて生活していかなくてはなりません。
これは国の違いも言語の違いも超え,人間として生まれたからには誰でも行
なっている行為です。

そのように考えるのであれば,従来の「文型積み上げ式」などで,語彙をセー
ブしたり,この文型はまだ後だから教師は話さないようにする,など教師側
でコントロールすることは,本当に,全くナンセンスなことなんだと思いま
す。
なぜなら,どんな社会の場においても,そのような「コントロールされた」
会話など,どこにも成立しないからです。

それにもかかわらず,自分は今まで,学習者と話すときは,そのように未習
の語彙や文型は使わぬように,と気をつけて接してきました。
一体それに何の意味があったのか,それがコミュニケーションだと言えるの
か,「今まで習った語彙,文型を使って話しましょう」と言っていた自分は
何を最終的に目指していたのか。当時の私に激しい突っ込みを入れたいくら
い,何も考えず授業をしていたのだ,といま当時の自分を振り返っています。
(そして,そのようにするのが当たり前として「無自覚」である,というこ
とが,一番恐ろしいことではないかと思います。)

今回の講演で,特に印象に残ったことは,「ただ話ができる」ようになるの
ではなく,「頭の中で考えていることを言う」訓練が必要だということ。

普段のゼミでもやっていたように,「頭の中で考えていること(内言)をこ
とばで表現する(外言化)」はいま私の中でキーワードの部分でした。
そして今回の講演ではそれプラス,学習者が「考えていることを引き出す」
前に,まず「何を考えるか」,この教育も同時に必要なことなんだ,という
示唆がありました。
つまり,学習者が頭の中に「何を考えるのか」ということを刺激するのも教
育だと私は理解しました。
そう考えると,ただただ,文型の変形や意味,語彙を導入する事が「教える」
ことではない,と言えます。

「新しい教育の流れ」が,このようにニューヨークの高校で実践されている
ことに大きな刺激を受けました。そして,自分の目指す日本語教育の姿が,
漠然と見えてきた気がします。今までの自分の無自覚さも感じました。

今日の講演会は私にとって,そのような意味でもきっかけをくれる時間とな
りました。
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[付記]津田さんの仕事については,川上郁雄「年少者のための日本語教育」
(細川編,2002『ことばと文化を結ぶ日本語教育』凡人社)に詳しい紹介が
ある。                            (ほ)
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■ おしらせ ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
━【掲示板復活】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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◆http://bbs5.otd.co.jp/hosokawa/bbs_plain
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━【学会】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆日本言語政策学会 第1回大会
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◇日時:2002年11月30日(土)12:00-17:30,12月1日(日)10:00-17:20
◇会場:桜美林大学町田キャンパス 崇貞館,太平館
◇参加費:会員無料,非会員3000円
◇研究発表:日本研究を超えて−日本語教育学の位置付けと課題
      細川英雄(早稲田大学),ほか
◇お問い合わせ:jalp@obirin.ac.jp
◇詳細は,http://www.obirin.ac.jp/~jalp/1stconference2.html


━【無料講演・説明会】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆朝日カルチャーセンター「日本語教師養成講座」講演会
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇日時:12月7日(土) 15:30-
◇第1部:講演(15:30-)「国際化のなかの日本語教師―学習・教育・研究
     を結ぶ視点―」細川英雄(早稲田大学日本語教育研究科教授)
◇場所:朝日カルチャーセンター内 教室(新宿住友ビル43階)
◇お申し込み:要予約(定員になり次第,締め切らせていただきます)
       朝日カルチャーセンター日本語科まで,電話またはE-Mailで
       TEL 03-3344-1965(月〜土 10:00-18:30)
       E-mail nihongo@acc-web.co.jp


━【新刊】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆21世紀の「日本事情」─ 日本語教育から文化リテラシーへ 第4号
◆B5判 本体価格 2,000円 くろしお出版
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「日本事情」研究のための理論的考察の深化,調査研究の展開,実践的試行
の蓄積,そして関連情報の共有を同時に目指す年刊の学術雑誌です。詳細は,
http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/21c.htm をご覧ください。


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 誌 名:ルビュ「言語文化」39号
 発行日:2002年11月15日(毎週金曜日発行)
 発行所:言語文化教育研究室
     〒169-8050 新宿区西早稲田1-7-14
     早稲田大学大学院日本語教育研究科内
 編集,発行責任者:細川英雄
     http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/
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