2002/11/08

[RLC021108]ルビュ言語文化 第38号

[2002-11-08] Revue Langue et Culture N.038
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[ 週刊 ] ル ビ ュ 言 語 文 化 (RLC) ── 第38号 ──

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■ 38号 もくじ ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
◇研究室より:支援と指導
◇私から一言1:「帰属を疑う」 牛窪隆太
◇私から一言2:「初級レベルで「総合」に参加することとは」 田中敦子
◇おしらせ:日本言語政策学会 第1回大会,ほか
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■ 研究室より ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
支援と指導
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当研究室では,修士論文作成を含めて,支援はするが指導はしない。

これは,日本語のクラスでも大学院の講義でも同じことで,担当者から行わ
れるのは,常に支援という形での発言や提案である。

しかしよく考えてみると,支援と指導は両極にあることがわかる。

つまり,支援の場合,活動の主体はあくまでも支援される側にあり,その主
体の意思が不可欠である。これに対して指導は,指導する側に指導するため
の内容があるわけだから,その内容の価値と授与が重要だ。

例えば,日本語教育の場合,考えるべき何か(語彙,文型,発言・・・何で
もよい)が指導の側にあるとすると,その内容の価値と授与が必要だと考え
る。このように考えながら,教室活動の支援などといっても,結局は指導側
の所有する価値の授与が目的なのだから,それは絵空事でしかない。基礎を
しっかりタタキこんでから,あとは学習者の主体性に任せればよい,などと
いう意見はまさにこの矛盾を露呈するものだ。

ゼロ初級は何も知らないのだから,何かを与えなければ・・・という発想は,
この典型だし,このとき,理論としてはわかるが,実際どうしたらいいかわ
からないという,眼の前50センチ主義者は,別のところでウドンを食って寝
てほしい。

では,支援とは何か。

それは教室構成員としての学習者の活動のための環境の設計・設定と場の組
織化,そし学習者一人一人の活動のサポートだろう。まずプランをたて,そ
のプランを組織化し,構成員の活動をサポートする。当研究室では,この理
念と方法について一人一人が考え,学んでいる。         (ほ)
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■ 私から一言(1) ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
帰属を疑う                         牛窪隆太
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帰属とはすべての人間がもっているものだと思います。
それは,たとえば国であったり,会社であったり,研究室であったりもしま
す。
これらに対する帰属意識は自己に後ろ盾の強さを与えてくれ,安心感をもた
らしてくれます。言い換えると,私は○○に属していると考え,逃げ帰るこ
とのできる場所を自分の中に持つことで,人間は自己を安定させていると言
えるかもしれません。

この前,ある人と話しているときに,文化と帰属意識は同じものかもしれな
いと考えました。

私は普段は「私は日本文化出身です」と考えることを意識的に疑っているの
ですが,その反面,ある状況下では「私はこの学校出身です」とか「私は埼
玉県出身です」とかいうことを都合のいいように利用しているのです。
他者に「私」について疑問を投げかけられたとき,自分が帰属意識をもつ「
この地方」「この学校」を後ろ盾に,自分の意見をさもその帰属のすべての
人が共有しているかのように言うことがあります。「私」と「あなた」の軸
で話をしていたものが,気がつくと「私の属する○○」と「あなたの属する
○○」の軸での話しになっています。

和やかな雰囲気での会話ならばこのことは大きな問題にはなりませんが,自
分の尊厳が傷つけられてしまうと感じる雰囲気の会話ではこのことが大きな
問題になります。
「私の属する○○」がいつの間にか自分の中で絶対的な価値観を持つように
なり,私は「あなたの属する○○」を認めたくないという排他的な気持ちに
なります。

こう考えると,私の中にある帰属意識とはひどく不自由なもので,自分の中
から捨て去ってしまったほうがいいのかもしれません。

秋の夜長に自分の「帰属」を一度疑ってみるのも悪くないと思います。

           (早稲田大学大学院日本語教育研究科 修士一年)


■ 私から一言(2) ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
初級レベルで「総合」に参加することとは           田中敦子
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先学期,私は実習生として「総合」に参加し,半年間,初級レベルの学習者
5人のレポート作成を支援した。

「趣味は何ですか」「どうして日本へ来たんですか」など,何度も聞かれて
いるような質問にはスラスラ答えられるが,少し込み入った話題になると,
途端に意思の疎通が難しくなる。

これで本当に「私について」のレポートをA4で3枚も書けるのだろうか・
・・?初日,おそらく実習生の全員がそう思っただろう。だが,それはとん
だ杞憂であった。
週を追うごとに,彼らのレポートは長くなり,グレードも上がり,使う語彙
も表現も,ピンポイントを突いてくる。他の授業で習った文型や自分で仕入
れてきた表現を,ちゃんとここで使えるかどうか,試している。初級だから
,という心配は無用であり,明らかに私は彼らを見くびっていたとしか言え
ず,申し訳ないとさえ思った。

確かに上級レベルの学習者と比べて,コミュニケーションに時間はかかるか
もしれない。完成レポートだって,誤用が多いのは確かだ。

だが,言いたいことは伝わってくるし,何より,そのプロセスや,出来上が
った内容に関しては,決して引けをとらない。

それに,むしろ初級学習者の方が,「総合」クラスから得たものは大きいの
ではないかと私は思う。彼らにとって,日本語で自分について,これだけ深
く語り,書き上げるという経験は初めてだったはずだ。あのレベルで,自分
の言いたいことを確実に伝えなければならないのは,想像以上に大変な作業
であっただろう。

だが,多少の間違いがあったとしても,相手を説得するために毎週コミュニ
ケーションを続け,それを最終的に形にできたという自信を初級の段階で得
られたことは,彼らにとって,次の段階へステップアップするためのモチベ
ーションの一つとなり得たのではないか,と思うのだ。

余談だが,先学期私たちが担当した学習者のうち2人が,今学期もまた「総
合」を受講し,新しいテーマでレポートを書き始めていると聞いた。
なんだか嬉しい。
              早稲田大学大学院日本語教育研究科(M2)

■ 投稿お願い ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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ます。日本語教育にかかわることなら何でも結構。随時,下記のアドレスま
でメールでお送りください。       細川英雄 hosokawa@waseda.jp
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■ おしらせ ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
━【学会】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆日本言語政策学会 第1回大会
◆http://www.obirin.ac.jp/~jalp/1stconference2.html
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◇日時:2002年11月30日(土)12:00-17:30,12月1日(日)10:00-17:20
◇会場:桜美林大学町田キャンパス 崇貞館,太平館
   (JR横浜線 淵野辺駅下車バス10分)
◇参加費:会員無料,非会員3000円
●第1日目:11月30日(土)
12:00− 受付け
13:00− 総会
14:00− 講演“New Language Regimes in Europe and Japan” 
        F.Coulmas(Gerhard Mercator 大学)
15:10− 講演「アジアと日本の言語政策」水谷 修(名古屋外国語大学)
16:30− 事例報告「司法通訳問題を考える」梓澤和幸(弁護士)
17:30− 懇親会(会費3000円)
●第2日目:12月1日(日)
09:00−  受付け
10:00− 研究発表(午前の部)
    【A201教室:事例研究発表】
    1)類似商標裁判の法言語学的考察−ザ・リッツ・ショップ事件
      大河原 眞美(高崎経済大学)
    2)ロシア連邦サハ共和国における言語教育構想
      佐多明美(東京都立町田工業高等学校)
    3)ドイツ新移民法−ドイツ語学習義務化−について
      四釜綾子(ドイツ デュースブルク大学)
    4)EU における言語政策の研究−ギリシャの外国語教育
      平尾節子(愛知大学)
    5)積極的相互作用的異文化間教育としての言語教育の提案
      −ドイツの事例から今後の日本の政策を考える−
      安井綾(慶應義塾大学大学院生)
    【A202教室:研究発表】
    1)日本語指導が必要な外国人児童生徒受入れの現状と課題
      −周囲の人たちへの聞き取り調査報告をもとに
      内田雅子(国際日本語普及協会)
    2)学習支援システムの再検討−日本語学習者と学習環境
      浜田麻里(大阪大学)他
    3)日本研究を超えて−日本語教育学の位置付けと課題
      細川英雄(早稲田大学)
    4)日本への留学生受け入れに関する施策と現状
      岬 里美(慶應義塾大学)
    5)国際社会の日本語−日本語観国際センサス国内調査の結果から
      米田正人(国立国語研究所)
13:30− 研究発表(午後の部)
    【A201教室:研究発表】
    1)森有禮の“戦略的言語態度”への一考察
      小林敏宏(筑波女子短期大学)
    2)EUエラスムス計画とシャルルマーニュの言語政策
      −「文字を求める肉声」と「肉声を求める文字」
      工藤 進(明治学院大学)
    【A202教室:研究発表】 
    1)日本と米国の単一言語政策:マイノリティに及ぼす心理的影響
      杉野俊子(防衛大学校)
    2)日本語をめぐる言語政策のモダニズムとポストモダニズム
      仲矢信介(ロシア極東国立総合大学)
    【レクチャーホール:研究発表】
    1)「英語が使える日本人」育成のための戦略的構想,をめぐって
      森住 衛(桜美林大学)
14:50− シンポジウム「日本の言語政策/言語教育政策/を考える」
     司会:田中慎也(桜美林大学)
     パネリスト:鈴木孝夫(慶應義塾大学名誉教授),田中克彦
           (一橋大学名誉教授),中村敬(成城大学),
           水谷修(名古屋外国語大学)
◇お問い合わせ:jalp@obirin.ac.jp

━【全文公開中】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆「論集ひととことば」第3号
◆http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/htkt_jn.htm
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 大学院日本語教育研究科の講義・演習レポートをもとにした論考集。全文
がPDFでご覧になれます。ぜひご覧ください。2002年度春の「総合」をはじめ
とする言語文化活動への,さまざまなアプローチが掲載されています。


━【新刊】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆21世紀の「日本事情」─ 日本語教育から文化リテラシーへ 第4号
◆B5判 本体価格 2,000円 くろしお出版
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「日本事情」研究のための理論的考察の深化,調査研究の展開,
実践的試行の蓄積,そして関連情報の共有を同時に目指す年刊の学術雑誌です。
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さい。お求めは,全国書店にて。


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◆朝日カルチャーセンター「日本語教師養成講座」講演会
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇日時:12月7日(土) 15:30-
◇第1部:講演(15:30-)「国際化のなかの日本語教師―学習・教育・研究
     を結ぶ視点―」細川英雄(早稲田大学日本語教育研究科教授)
◇場所:朝日カルチャーセンター内 教室(新宿住友ビル43階)
◇お申し込み:要予約(定員になり次第,締め切らせていただきます)
       朝日カルチャーセンター日本語科まで,電話またはE-Mailで
       TEL 03-3344-1965(月〜土 10:00-18:30)
       E-mail nihongo@acc-web.co.jp



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 誌 名:ルビュ「言語文化」38号
 発行日:2002年11月8日(毎週金曜日発行)
 発行所:言語文化教育研究室
     〒169-8050 新宿区西早稲田1-7-14
     早稲田大学大学院日本語教育研究科内
 編集,発行責任者:細川英雄
     http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/
 配信システム:まぐまぐ
     http://http://www.mag2.com/
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 登録,解除の手続きは,
     http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/mmaga.htm
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(c) 2002 Hosokawa, H. Lab. 無断転載を禁じます。

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