2002/10/18
[RLC021018ルビュ言語文化 第35号
[2002-10-18] Revue Langue et Culture N.035 #################################################################### [ 週刊 ] ル ビ ュ 言 語 文 化 (RLC) ── 第35号 ── #################################################################### ■ 35号 もくじ ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇研究室より:人間の尊厳と日本語教育 ◇私から一言:女王サマにご用心 武 一美 ◇おしらせ:21世紀の日本事情 第4号 他 -------------------------------------------------------------------- ■ 研究室より ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 先週の土曜日,高知大で開催された日本語教育学会でのシンポジウム「日本 語のバリエーションと日本語教育」でのマリイ・クレアさんの話は興味深かっ た。 「ジェンダーと日本語教育」と題された発表では,表現者としての「私」, という位置が明確に把握されていたからだ。 「女らしい表現」とは誰が決めるのかという話題は,とかく世間知としての 社会的価値に「私」を合わせるかどうかで終始するのだが,マリイさんの主 張は表現者(発話者)の「私」に委ねられるべきだとする点で一貫していた。 このジェンダーをもう少し広く「文化」に置き換えてみると,問題がより明 確になる。 例えば,ある集団で失敗することをおそれるため,その集団での習慣・慣習 を学習情報として教えることが「教育」だと思い込んでいると,一人一人の 「私」に対する,とんでもない暴力として作用することがある。 なぜそういうことが起こるかというと,一つは,学習者の集団をこれこれの ものだとする一括りの視点だ。ここでは,表現者としての「私」の意志は抹 殺される。 もう一つは,それがいかにも善意として,あるいは良心として行われるとい う問題である。常識はずれはダメ,恥をかいてかわいそうという,いわば善 意の押し売りの形をとった暴力である。 教育の問題が,人間一人一人の側に立つのではなく,制度としての社会規範 の側に立って行われるとき,そしてそのことが無自覚的に行われるとき,人 間の尊厳はいともたやすく踏みにじられてしまう。 (ほ) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■ 私から一言 ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 女王サマにご用心 武 一美 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 秋期の「総合」がスタートした。先期は実習生として参加したが,今期はTA をやらせてもらっている。 先日,学生に言われた。 「普通に話してください。話し方へんですよ」(もちろん笑顔で) おっと,いけない。ティーチャー・トーク?,と内心かなり動揺した。後で グループの大学院生に聞いてみると,「ちょっとお母さんぽいかな」という 返事。 学習者の日本語レベルを考えた語彙のコントロールが高じて,女性日本語教 師の場合,お母さんしゃべりや,小学校の先生しゃべりになってしまうこと はよく指摘されている。ああ,私も・・・ 以前日本語教師の友人が皮肉を込めてこう言っていた。 「気を付けなくっちゃね。私達女王サマだから」 密室状態の教室でただ一人の母語話者として存在するうちに,内省を忘れ巨 大な権力を持つ女王サマ化してしまうというのだ。アブナイ,アブナイ。 (でも,学生が前述のような発言をしてくれた・・ということは,私はまだ 女王サマではなかったと思っていい?) 私は,「ことば」を教える教師が身に付けるべき能力とは何か・・・という ことについて考えている。しかし「総合」での先日の体験から,身に付ける ことよりも身に付けない,あるいは剥ぎ取ることの方が切実な問題かもしれ ない,と考えはじめている。 (早稲田大学日本語教育研究科 修士1年) --【 投稿お願い 】------------------------------------------------ 「私から一言」に,このメルマガの読者の方々から広くご意見をいただき たい。日本語教育にかかわることなら何でも結構,ただし,個人や団体の誹 謗中傷の類はご遠慮いただきたい。随時,下記のアドレスにメールをいただ ければ幸いである。 細川英雄 hosokawa@waseda.jp ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■ おしらせ ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ==【新刊】========================================================== □ 21世紀の「日本事情」─ 日本語教育から文化リテラシーへ 第4号 □ B5判 本体価格 2,000円 くろしお出版 □ http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/21c.htm ==================================================================== お求めは,全国書店にて。 【実践する】 海外の日本語教育における日本文化の学習を促すコースと教師の役割 トムソン 木下 千尋 日本語教師の衣に気づく:日本語教員養成における異文化コミュニケーショ ン教育の評価実践─事例 徳井厚子 【調査する】 外国人留学生の来日直後の生活知識と日本語教育―回想調査の因子分析によ る考察と提言 要 弥由美 【考察する】 文化“知識”としての“日本事情”再考 小川 早百合 「言語的運用力の強化という機能」に即して ―日本語教育の「日本事情論」 的展開へ向けて 砂川 裕一 【書評】 『日本語教育はなにをめざすか 言語文化活動の理論と実践』 山田 ボヒネック 頼子 【関連情報】 コンピュータゲームを利用して学ぶ日本のくらし ―日本人の一生すごろく 品川 直美・山下 直子 【2001年度 日本語教育学会 秋季大会 シンポジウム】 「文化」をどう教えるか―日本語教育と文化リテラシー 英語教育で文化はどう捉えられているか 吉田研作 言語と文化の教育そして日本事情 川上郁雄 内容重視の日本語教育 岡崎眸 日本語教育と「文化」概念 佐々木倫子 質疑応答 シンポジウムを終えて ことばと文化を結ぶ地平 細川 英雄 ==【シンポジウム】================================================== □ 日本語と日本研究 〜日本を知るための日本語とは〜 □ 国際交流基金設立30周年・関西国際センター開設5周年記念シンポジウム □ http://www.jpf.go.jp/j/kansai/news/seminar020918.html ==================================================================== 国際交流基金設立30周年・関西国際センター開設5周年記念の本シンポジ ウムでは,専門日本語研修の中でも日本研究者・大学院生に対する日本語研 修に関連して,現在日本研究の第一線で活躍しておられる方々に報告いただ き,議論を深めます。多数の皆様のご来場をお待ちしております。 ●期日:平成14年11月1日(金) 10:00〜17:30 ●場所:国際交流基金関西国際センター(大阪府泉南郡田尻町) ●申込方法等,詳しくは http://www.jpf.go.jp/j/kansai/news/seminar020918.html をご覧ください。 ==【無料講演・説明会】============================================== □ 朝日カルチャーセンター「日本語教師養成講座」講演会[無料] ==================================================================== 朝日カルチャーセンターの「日本語教師養成講座」の募集にあたり,無料 講演会・説明会を開催します。ぜひご参加ください。 ●日時:12月7日(土) 15:30- ●第1部:講演(15:30-)「国際化のなかの日本語教師―学習・教育・研究 を結ぶ視点―」細川英雄(早稲田大学日本語教育研究科教授) ●第2部:講座説明会(17:00-18:15) ●場所:朝日カルチャーセンター内 教室(新宿住友ビル43階) ●お申し込み:要予約(定員になり次第,締め切らせていただきます) 朝日カルチャーセンター日本語科まで,電話またはE-Mailで TEL 03-3344-1965(月〜土 10:00-18:30) E-mail nihongo@acc-web.co.jp ==================================================================== ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 誌 名:ルビュ「言語文化」35号 発行日:2002年11月18日(毎週金曜日発行) 発行所:言語文化教育研究室 〒169-8050 新宿区西早稲田1-7-14 早稲田大学大学院日本語教育研究科内 編集,発行責任者:細川英雄 http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/ 配信システム:まぐまぐ http://http://www.mag2.com/ ────────────────────────────────── 登録,解除の手続きは, http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/mmaga.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ (c) 2002 Hosokawa, H. Lab. 無断転載を禁じます。