2002/01/31
[RLC020131]ルビュ言語文化 第10号
[2002-01-31] Revue Langue et Culture #################################################################### [ 週刊 ] ル ビ ュ 言 語 文 化 (RLC) ── 第10号 ── #################################################################### ■ 第10号もくじ ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◇研究室より ◇日本語教育とは何か(9)―自分の意見を持つためのことば ◇院生からひとこと‥教材を捨ててみませんか? 張 珍華 ◇おしらせ‥ベルリン・シンポジウム ほか ◇刊行物のお知らせ‥『日本語教育は何をめざすか』 ほか ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■ 研究室より ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 激動の秋学期もようやく収束に近づいている。相互自己評価もほぼすべて のクラスで終わり,あとは他者の意見を取り入れた成果をどのようにまとめ るかという段階にきた。いつもこの時期になると,自分のクラスで何ができ たのだろうかと反省する。評価を出し成績をつけなけれならないからだろう。 評価や成績というものがこの世からなくなってしまえばいいと昔はよく思っ たものだ。しかし,そんなユートピアは存在しない。ならば,いっそのこと 永遠に評価しつづければいいのではないか。といっても客観的な何かを求め て数値にこだわったり,固定的な基準づくりをめざすのも空しいことだ。自 分の評価は絶対ではない。もちろん,他者の評価も絶対でもない。そうだ, この世に<絶対>などありはしない! さまざまに浮遊する諸評価基準の上に乗ってぼんやりと遠くを眺めてみよ う。そうすると,いろいろなモノ・コト・サマが見えてくる。真っ青な空と 海の間を帆走する船の舳先から,ほら,イルカの群れが水飛沫を上げて戯れ ている! (ほ) ==================================================================== ==================================================================== □ 日本語教育とは何か(9) □ 自分の意見を持つためのことば ==================================================================== 前回の「「状況の押し売り」にならない,本当の「場」」という記事に関 連して,ことばの学習の目的について考えてみよう。 ある研究会で,ことばによって何を得るのかということを改めて考える機 会があった。この場合のことばとは,母語でもあり,また第二言語でもある。 両者には学び方に違いがあるのだから,混同すべきでないという意見もある が,その本質においてことばであることには変わりがないのだから,ここで は区別をしないことにしよう(ここでどうしても別だと考える人には,ここ から先の議論がむずかしい!)。 ことばが基本的に思考とコミュニケーションのためにあることはいうまで もないことだが,この場合の思考とは,結局「自分の意見を持つ」というこ とではないだろうか。これはたぶんに教育的な考え方で,拠って立つ分野に よってその捉え方は異なるだろうが,いずれにしても,この「自分の意見を 持つ」ためにことばが存在することは間違いないだろう。言い換えれば,こ とばがなければ「自分の意見は持てない」ことになる。つまり,自分の意見 を持つためには,ことばが必要だということだ。 では,ことばによって,自分の意見が持てるようにするには,どうすれば いいのか。 一つには,ある一定の枠組みを与え,その中で考えさせようとする方法が ある。フレームワークという考え方だ。僕も以前にはそういうふうに考えて いた時期がある。ところが,最近,もしかしたらそうではないのではないか と思うようになった。たしかに何らかの枠組みは必要であろう。たとえば, 何かについて書く場合でも,ただ思ったことを書け,見たままを書け,では 始まらない。そういう感じたままを書くだけを何度繰り返しても,ほとんど 考えたことにならない。感想文の類をどんなに書いても思考が深まらないの はこのためだろう。だから,そうした思いや感じをあるフレームワークに入 れて表現すると,意外に今まで自分には曖昧だったことがはっきりしてくる ことがある。枠組みというのは,そういう効果を持っている。 しかし,「自分の意見を持つ」ということは,それがすべてではない。そ の枠組み以前に,もっと重要な何かがあるような気がする。たとえば,フレ ームとして「客観的な事実」に即して考えなければならないという枠組みを 与える。ところが,その「客観的な事実」を「客観的」なものとしてまった く疑うことを忘れると(気づかないと),問題がどんどん自分から離れてし まう。他者を説得するためには,一般に通じる論理が大事,一般に通じるた めには客観的な事実に基づかなければダメ,客観的な事実とは形に表れてい なければダメ,形に表れた客観的な事実は一般が支持する,一般が支持する マジョリティこそ重要・・・いつのまにかこんな怖ろしい論理展開が無自覚 的に発生してしまう。「自分の意見を持つ」というのは,そのように自分か ら離れたところに根拠や論拠を求める行為ではなく,自分の中に自分のこと ばを探すということなのではないかと僕は考えるのである。 そうすると,どこかから持ってきた枠組みを人に当てはめ,それによって その人の考えていることを確定しようとする考えはかなり危険な思想だと言 える。しかも当人がそのことがすばらしいと考えている場合,さらに問題は 重大である。 では,自分の中に自分のことばを探すということはどのようにして可能な のか?そのための鍵は,他者とのインターアクションとその往還であり,そ のための環境が必要であると僕は思う。もちろん,形そのものの存在を否定 する気はさらさらないが,むしろ形とは,そのような環境の中でおのずと現 れる蜃気楼のようなものではないかとも考えている。 以下次号をお楽しみに! (ほ) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ □ご意見ください!! この「日本語教育とは何か」のコーナーでは,読者の方々の,いろいろな 意見を紹介しつつ,日本語教育の問題をみんなで考えていく「場」としたい と考えています。どうぞHPの掲示板にお便りをください。できれば,記名の ものを望みますが,匿名でも受け付けます。 皆さんからのメールを待っています。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ +─[新刊:本日刊行!]───────────────────+ ◆『日本語教育は何をめざすか―言語文化活動の理論と実践』◆ ◆ 細川 英雄著 ◆ ◆明石書店 2002年1月31日刊行 6,500円◆ 著者15年の「日本事情」研究の集大成。 ことばと文化を結ぶ,画期的な日本語教育原論。 ◇ http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/naniwo.htm ◇ +───────────────────[新刊:本日刊行!]─+ ■ 院生からひとこと ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ==================================================================== □教材を捨ててみませんか? □日本語教育研究科1年(01秋期生) 張 珍華(ちゃん じんは) ==================================================================== 私は去年の10月から大学院で受講しているが,総合クラスという日本語の 実践授業から受けた刺激が一番大きかった。 私が刺激された部分とは,教室の中の「教師と生徒」の関係に関すること である。教室では,「教師は生徒に何かを与える」「生徒は教師から何かを もらえる」とばかり思っていた。つまり,いつも「もらう」立場の生徒から 考えると,「与える」役割の教師とは生徒より常に「地位の高い」存在であ った。 しかし,私が参加した総合クラスにはこのような教師の「地位の高さ」は 無かった。みんなが同じ高さで,机を輪に並んで話し合っている。教師の 「地位」の源である教材のない教室で何を話しているかというと,「生徒一 人一人のこころ」であった。「自分のこころ」を教えてくれる教材やロール プレイなんか存在するはずが無いと考え,刺激が納得に繋がった3ヶ月間だっ た。 今,日本語を教える教師の方々,「あなたにとって日本語教師とはなんで すか?」 一度,教材や教卓を捨てて,生徒のこころを語ってもらいませんか? どうやって?と思う方は総合クラスやベルリンのシンポジウム(2002 年3月22日(金)〜24日(日))の参加をおすすめします。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ +─────────────────────────────[PR]─+ ◆ 「総合活動型日本語教育」への疑問,質問に答える ◆ ◆ 早稲田大学大学院日本語教育研究科言語文化研究室 ◆ □□ http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/qanda.htm □□ 当言語文化研究室で設計した「総合活動型日本語教育」に関して □□ 今までにいただいたご意見,ご質問に対する考えを述べました。 □□ ご意見やご質問をお寄せいただければ幸いです。 参考として『日本語教育と日本事情―異文化を超える』(細川英雄著・ 明石書店)をご覧ください。HPで目次が見られます。 +────────────────────────────────+ ■ おしらせ ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ==================================================================== 3月にベルリンで会いましょう! □ドイツ語圏 大学日本語教師会 第8回 2002年 ベルリン・シンポジウム ==================================================================== ●期日:2002年3月22日(金)〜24日(日) ●テーマ:グローバル化時代の『日本語教育・日本事情教育』─ 理論と 実践 ●招待講師:細川英雄(早稲田大学日本語研究教育センター・教授) ●協賛:日独ベルリンセンター Japanisch-Deutsches Zentrum Berlin 連絡先 Dr. Yoriko Yamada-Bochynek, e-mail: yayo@zedat.fu-berlin.de 注 目 ! ■このシンポジウムのための参加ツアーを大学院の張さんが企画中です。参 加を考えていらっしゃる方,下記に連絡してみてください。 日本語教育研究科(01秋期生) 張 珍華(チャン・ジンハ) <changhwada@hotmail.com> ==================================================================== +──────────────────────────[PR]─+ ◆◆◆ めるマガ『日本語教師,あ・つ・ま・れ〜!』 ◆◆◆ 毎回お届けする日本語教授レシピは楽しい授業にするためのヒント がいっぱい!また,日本語や日本語教育,日本文化などに関する様 々な疑問・質問・悩みについても語り合います。日本語や語学教育 などに関心のある方,是非ご参加ください!(^.^)ノ http://www.kfcs2000.com/f/index.html +─────────────────────────────+ ==================================================================== □(社)日本語教育学会 言語教育国際シンポジウム □コミュニケーションにかかわる言語能力 ― テスト開発と測定・評価 ― パネリスト:ライル・F・バックマン博士ほか 2002年3月21日(木・祝日) 学術総合センター(千代田区一ツ橋) □(社)日本語教育学会 言語能力測定に関する講演会 □「コミュニケーション能力をどう測るか:現状と展望」 講演:ライル・F・バックマン博士(カリフォルニア大学ロサンジェルス 校教授) 2002年3月23日(土) 国立オリンピック記念青少年総合センター(渋谷区 代々木) □(社)日本語教育学会 言語能力測定に関するワークショップ □「テストの設計と作成」 講師:ライル・F・バックマン博士 2002年3月24日(日) 学術総合センター(千代田区一ツ橋) ■以上の参加申し込みは,下記まで。 〒101-0065 千代田区西神田2-4-1東方学会会館2F (社)日本語教育学会 FAX:03-5216-7552 E-mail:nkg@mb.kcom.ne.jp ==================================================================== +──────────────────────────[PR]─+ 【注目!!】 ルビュ言語文化(RLC)では, 日本語教育関係のメルマガやホームページとのリンクを積極的に推 進しています。 このメルマガとの連携に興味のある方,お便りください。 発行責任者:細川英雄 hosokawa@mn.waseda.ac.jp +─────────────────────────────+ ■ 刊行物のお知らせ ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ==================================================================== □『日本語教育は何をめざすか―言語文化活動の理論と実践』 □ 細川 英雄 著 □ http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/naniwo.htm ==================================================================== ・著者15年の「日本事情」研究の集大成。 ・ことばと文化を結ぶ,画期的な日本語教育原論。 明石書店 本日刊行! 6,500円 ==================================================================== □アルク「月刊日本語」2002年1月号 発売 □特集「日本事情 あなたはどう教えますか?」 □http://www.alc.co.jp/gn/ ==================================================================== ・日本語学習におけるコミュニケーションと社会文化行動 ―60年代からの試みと現在の課題 J.V.ネウストプニー ・言葉と文化を結ぶ地平―総合活動型日本語教育のめざすもの 細川英雄 ・「日本事情」研究の昔と今 牲川波都季 ・日本事情の授業に潜入―佐々木瑞枝,小田切隆,泉史生ほか ・日本事情に関する参考文献等,盛り沢山の情報が一杯! ◇2月号には,当研究室の于之玲(01春期生)さんも出ています。 ==================================================================== □「論集ひととことば」 □http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/htkt_jn.htm ==================================================================== 当言語文化研究室での活動を中心にした交流誌です。 半期1冊のペースで,大学院生ほかのレポート等を掲載しています。従来 の「ひととことば」(ひつじ書房発売)を一新し,電子媒体による新方式と なりました。内容は,HPのPDFで見られます。乞アクセス。 ■当研究室への参加を考えていらっしゃる方に是非おすすめ! レポートの水準は読者の方の判断にお任せします。現在,第2号鋭意編集 中。 ==================================================================== □「21世紀の「日本事情」― 日本語教育から文化リテラシーへ」 ==================================================================== 今,最も新しい「日本事情」研究の専門誌です。最先端の理論と実践が満 載,この雑誌を知らずして「日本事情」はもはや語れません。くろしお出版 刊。全国書店にて1〜3号好評発売中。投稿熱烈歓迎。 ■第4号の投稿〆切は,4月末日です。皆さんの投稿をお待ちしています。 http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/21c.htm ==================================================================== +──[PR]───────────────────────+ ◆ 早稲田大学日本語教育研究科 ◆ 今,もっともホットでニュースな大学院,入学願書配布中 ◇ http://www.waseda.ac.jp/gsjal/ ◇ +───────────────────────────+ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 誌 名:ルビュ「言語文化」10号 発行日:2002年1月30日(毎週木曜日発行) 発行者:言語文化研究室 〒169-8050 新宿区西早稲田1-7-14 早稲田大学大学院日本語教育研究科 編集責任者:細川英雄 http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/ 配信システム:まぐまぐ http://http://www.mag2.com/ ────────────────────────────────── 登録,解除の手続きは, http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/mmaga.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ (c) 2002 Hosokawa, H. 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