2002/01/24

[RLC020124]ルビュ言語文化 第9号

[2002-01-24] Revue Langue et Culture
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[ 週刊 ] ル ビ ュ 言 語 文 化 (RLC) ── 第9号 ──

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■ 第8号もくじ ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇研究室より
◇日本語教育とは何か(8)―「状況の押し売り」にならない,本当の「場」
◇院生からひとこと‥この研究室にはモンスターが住んでいる! 崔 允釋
◇おしらせ‥第9回 国語と日本語の連携を考える会 ほか
◇刊行物のお知らせ‥アルク「月刊日本語」2002年1月号 ほか
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■ 研究室より ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 数日前,国立国語研究所の知人が「総合」クラスを見学に来た。
 このクラスを1回や2回見て「総合」がわかった気になられても困るので,
普段は丁重にお断りしているのだけれど,彼女は,金沢時代からの古い知り
合いだし,近年日本語教育の研修担当を通して,さまざまな問題意識を持っ
ていると感じたので,2時間つづきの相互自己評価を見てもらった。その後,
研究室にて大学院生たちと懇談し,翌日,以下のようなメールをくれた。

 擬似的ではない,本物のコミュニケーションの場になっていることが非常
に印象的でした。・・・教育学や言語教育の理論で,このような事例を語る
論文は読んでいますが,実際に目にしたのは大きな収穫でした。理論と実践
の乖離を埋める,大きな示唆を得ることができました。

 今回,研究室掲示板に投稿してくれたタイの日本語の先生からのメールに
もあるように,「学生一人一人がそれぞれの経験や価値観を他者のそれとす
り合わせ自分の行動を決定する手助けをする,というような授業」を僕らは
どのようにして設計できるのか。
 もっと議論を,もっと連携を!  (ほ)

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□ 日本語教育とは何か(8)
□「状況の押し売り」にならない,本当の「場」
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 前回の「学習者がことばと文化を結ぶ」という記事に関して,早速,タイ
から感想をいただいたので,紹介しよう。

 初めまして。ルビュ言語通信を読んで悩んでしまったことについて投稿し
たいと思います。

 私は今タイの大学で日本語を教えています。先日自分の担当の会話クラス
(中級程度)でビジターセッションを行いました。この地に住んでいる日本
人をクラスに呼び,インタビューを行うというものです。その準備段階で驚
きました。約30グループの学生に自由なテーマでインタビューを考えてもらっ
たのですが,テーマが「日本料理」「日本の行事」「日本の若者」「日本の
観光地」の4つのテーマに集中してしまったのです。これらは彼らが「日本
文化」の講義で勉強したり,「会話」の授業で取り上げたテーマでした。

 数年前,東京の日本語学校で校外インタビュー活動を行った時(ちなみに
行ったのは早稲田大学でした)は1つのグループの中でも意見が分かれて苦
労するほど様々なテーマが飛び出してきました。これは学生たちが実生活の
中で体験して疑問に思ったり憤慨したりした内容で,料理,行事,観光地な
どというテーマは全く出ませんでした。若者のテーマはありましたが,その
内容は具体的な事に関する考え方を聞くもので,タイの学生が選んだような
実態調査的な質問ではありませんでした。

 ルビュ言語文化の中で細川先生がお書きになっていたように,言語を,ひ
いては文化を学ぶことが,「自己を取り囲む状況への認識とその判断の力」
(そしてそれに自分なりに対処する力,ということも付け加えたいような気
もします)を学ぶことだいう考えには同感です。そして,そう考えた時,海
外では「自己を取り囲む状況」は母国です。接する日本人は日本語教師だけ,
日本語を学んでいるのは,単に専攻しているから,という学習者も多いです。
ここでは,学生が普通の生活をしているかぎり,認識,判断,対処をせまら
れる状況におかれることがありません。

 この場合,教室内で擬似的にそれを作って学生がそういう能力を養う力を
助けるのが教師の役目であると考えることもできます。そしてその作る状況
をタイにいるタイの学生が将来おかれる可能性のあるものに設定することで
いくらかは助けになるかもしれません。それ自体は間違ってはいないとは思
います。(思いたいです。)しかし,そのように「状況を作る」ということ
は結局は「状況の押し売り」「情報の押し売り」になってしまうような気が
してしまうのです。そしてクラスの30人なら30人が同じ状況を同じように体
験することになります。これでは学生一人一人がそれぞれの経験や価値観を
他者のそれとすり合わせ自分の行動を決定する手助けをする,というような
授業はなかなかできません。悩みます。
(長くなりましたがお許しを・・・。)

 では,「状況の押し売り」「情報の押し売り」にならない,本当の「場」
は,どのようにして設計されるのか。「学生一人一人がそれぞれの経験や価
値観を他者のそれとすり合わせ自分の行動を決定する手助けをする,という
ような授業」は,どのようにしたら,可能なのか。ほら,だから,総合活動
型日本語教室があるじゃありませんか。
 以下次号をお楽しみに!                   (ほ)
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□ご意見ください!
 この「日本語教育とは何か」のコーナーでは,読者の方々の,いろいろな
意見を紹介しつつ,日本語教育の問題をみんなで考えていく「場」としたい
と考えています。どうぞお便りをください。掲示板あるいは(ほ)へ直接で
もかまいません。アドレスはHPから入れます。できれば,記名のものを望み
ますが,匿名でも受け付けます(ただし,内容によりますが)。皆さんから
のメールを待っています。
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+─[新刊予告]──────────────────────+
     著者15年の「日本事情」研究の集大成。
   ことばと文化を結ぶ,画期的な日本語教育原論。
◆『日本語教育は何をめざすか―言語文化活動の理論と実践』◆
         ◆ 細川 英雄著 ◆
    ◆明石書店 2002年1月31日刊行予定 6,500円◆
 ◇ http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/akashi.htm ◇
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■ 院生からひとこと ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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□この研究室にはモンスターが住んでいる!
□日本語教育研究科1年(01秋期生) 崔允釋
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 1ヶ月前,「モンスターズインク(モンスター株式会社)」というアニメー
ションを見たことがある。この映画は「世の中にモンスターが存在して,そ
のモンスターが押し入れの戸を開いて現れるんじゃないか?」と私達が小さ
い頃,一度位は想像していた話から始まる。
 「モンストロポリス(モンスター都市)」に住んでいるモンスター達は,
子供達をびっくりさせて悲鳴を採集することを職業として生きていく。
 押し入れに住んでいるモンスターはなぜ夜に現れて子供達に恐れさせるの
か?子供をあまりにも嫌がっているためなのか?もしくは人間世界に何の恨
みがあるためなのか?
 絶対そうではない!モンストロポリスは子供たちの悲鳴をエネルギ源に運
営されているので,この都市で生きていくためにせざるを得ない'仕事'であ
る。

 ここに同じような都市がある。言わば「細川トロポリス(細川都市)」
この都市の細川モンスターは教室に入ってきて私達をびっくりさせる。思考
しない人間に対する突っ込みと共に,それによって感じられる私達の悩み,
葛藤…
 私達の悩みと葛藤を採集してそれをエネルギ源として,この細川トロポリ
スは運営される。なぜ,細川モンスターは私達に悩みと葛藤を与えるのか?
私達をあまりにも嫌がっているのだろうか?絶対,そうではないだろう。私
達は悪夢をみるように,細川モンスターと出会ったが,悪夢後には何かが変っ
ている私自身を感じるようになる。

 「言語文化研究」の初めの授業を私は忘れられない。本当にモンスターだ
った。細川モンスター!今まで私が考えて来たのは,一体何だろう!ショッ
クだった。
 先生は絶対私の考えを否定したり,先生の考えを強要したりしなかった。
しかし,モンスターのような細川先生と出会った以降,私が私の考えを否定
する矛盾に落ちてしまった。

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+─────────────────────────────[PR]─+
◆ 「総合活動型日本語教育」への疑問,質問に答える ◆
◆ 早稲田大学大学院日本語教育研究科言語文化研究室 ◆
 □□ http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/qanda.htm
 □□ 当言語文化研究室で設計した「総合活動型日本語教育」に関して
 □□ 今までにいただいたご意見,ご質問に対する考えを述べました。
 □□ ご意見やご質問をお寄せいただければ幸いです。
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■ おしらせ ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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開 催 迫 る ! 今度の土曜日です!

□第9回 国語と日本語の連携を考える会
 http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/semi.htm
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来聴自由! 事前申し込み等不要です。みなさまふるってご参加ください。
●テーマ:自立を育てる言語教育
●期 日:2002年1月26日 15:00-18:00
●会 場:早稲田大学22号館(黄色いビル)
●話題1:Critical Thinkingからパラグラフ・ライティングへ
     加納なおみ(東京水産大学)
●話題2:自立を支援する ―ジェンダー・センシティヴの総合的教育実践
     を手がかりに
     飯田睦美(山梨県増穂南小学校)
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今年はベルリンで 会いましょう!
□ドイツ語圏 大学日本語教師会 第8回 2002年 ベルリン・シンポジウム
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●期日:2002年3月22日(金)〜24日(日)
●テーマ:グローバル化時代の『日本語教育・日本事情教育』─ 理論と
 実践
●招待講師:細川英雄(早稲田大学日本語研究教育センター・教授)
●協賛:日独ベルリンセンター Japanisch-Deutsches Zentrum Berlin
 連絡先 Dr. Yoriko Yamada-Bochynek, 
     e-mail: yayo@zedat.fu-berlin.de

注 目 !
■このシンポジウムのための参加ツアーを大学院の張さんが企画中です。参
 加を考えていらっしゃる方,下記に連絡してみてください。
 日本語教育研究科(01秋期生)
 張 珍華(チャン・ジンハ) <changhwada@hotmail.com>
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□横浜市国際交流協会 主催
□講座「共に生きる地域をめざして PART2」(あと2回。各回申し込み制)
□http://www.yoke.city.yokohama.jp/
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●第1回講座(すでに終了)
●第2回講座(※申し込みは1月7日〜上記方法で受付。先着順。)
期日: 1月27日(日)14時〜16時
会場: 横浜国際交流ラウンジ(産業貿易センタービル9階)
内容: 池上摩希子氏(中国帰国者定着促進センター,『子どもメール』担
    当)による講演など。質疑応答あり。
定員: 50名(先着順)
費用: 500円
●第3回講座
期日: 2月23日(土)13時半〜16時
会場: 横浜国際交流ラウンジ
内容: とよなか国際交流協会「子どもメイト」,川崎市のポルトガル語母
    語学習グループ,横浜市内の補習教室の実践報告など。
定員: 50名(先着順)
費用: 500円
(財)横浜市国際交流協会(YOKE)
http://www.yoke.city.yokohama.jp/
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□言語教育国際シンポジウム
□コミュニケーションにかかわる言語能力 ― テスト開発と測定・評価 ―
 パネリスト:ライル・F・バックマン博士ほか
 2002年3月21日(木・祝日) 学術総合センター(千代田区一ツ橋)

□言語能力測定に関する講演会
□「コミュニケーション能力をどう測るか:現状と展望」
 講演:ライル・F・バックマン博士(カリフォルニア大学ロサンジェルス
    校教授)
 2002年3月23日(土) 国立オリンピック記念青少年総合センター(渋谷区
 代々木)

□言語能力測定に関するワークショップ
□「テストの設計と作成」
 講師:ライル・F・バックマン博士
 2002年3月24日(日) 学術総合センター(千代田区一ツ橋)

■以上の参加申し込みは,下記まで。
 〒101-0065 千代田区西神田2-4-1東方学会会館2F (社)日本語教育学会
 FAX:03-5216-7552 E-mail:nkg@mb.kcom.ne.jp
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毎回お届けする日本語教授レシピは楽しい授業にするためのヒント
がいっぱい!また,日本語や日本語教育,日本文化などに関する様
々な疑問・質問・悩みについても語り合います。日本語や語学教育
などに関心のある方,是非ご参加ください!(^.^)ノ
      http://www.kfcs2000.com/f/index.html
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【注目!!】
ルビュ言語文化(RLC)では,
日本語教育関係のメルマガやホームページとのリンクを積極的に推
進しています。
このメルマガとの連携に興味のある方,お便りください。
      発行責任者:細川英雄 hosokawa@mn.waseda.ac.jp
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■ 刊行物のお知らせ ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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□アルク「月刊日本語」2002年1月号 発売
□特集「日本事情 あなたはどう教えますか?」
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 ・日本語学習におけるコミュニケーションと社会文化行動
   ―60年代からの試みと現在の課題       J.V.ネウストプニー
 ・言葉と文化を結ぶ地平―総合活動型日本語教育のめざすもの 細川英雄
 ・「日本事情」研究の昔と今               牲川波都季
 ・日本事情の授業に潜入―佐々木瑞枝,小田切隆,泉史生ほか
 ・日本事情に関する参考文献等,盛り沢山の情報が一杯!
◇2月号には,当研究室の于之玲(01春期生)さんも出ています。
□http://www.alc.co.jp/gn/


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□「21世紀の「日本事情」― 日本語教育から文化リテラシーへ」第3号
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 今,最も新しい「日本事情」研究の専門誌です。最先端の理論と実践が満
載,この雑誌を知らずして「日本事情」はもはや語れません。くろしお出版
刊。全国書店にて好評発売中。投稿熱烈歓迎。
http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/21c.htm


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□「論集ひととことば」創刊号 刊行
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 大学院日本語教育研究科開設に伴い,従来の「ひととことば」(ひつじ書
房発売)を一新し,当研究室での活動を中心にした電子媒体による新方式の
交流誌を刊行します。半期1冊のペースで,大学院生のレポート等を掲載し
ます。内容は,HPのPDFで見られます。乞アクセス。
http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/htkt_jn.htm

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  今,もっともホットでニュースな大学院,入学願書配布中
◇ http://www.waseda.ac.jp/gsjal/ ◇
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 誌 名:ルビュ「言語文化」9号
 発行日:2002年1月24日(毎週木曜日発行)
 発行者:言語文化研究室
     〒169-8050 新宿区西早稲田1-7-14
     早稲田大学大学院日本語教育研究科
 編集責任者:細川英雄
     http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/
 配信システム:まぐまぐ
     http://http://www.mag2.com/
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 登録,解除の手続きは,
     http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/mmaga.htm
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(c) 2002 Hosokawa, H. Lab. 無断転載を禁じます。

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