2002/01/10

[RLC020110]ルビュ言語文化 第7号

[2002-01-10] Revue Langue et Culture
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[ 週刊 ] ル ビ ュ 言 語 文 化 (RLC) ── 第7号 ──

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■ 第7号もくじ ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇研究室より‥日本語教育とは何か(6)―母語を超えるという思想
◇院生からひとこと‥「私」の「文化」を発信しつづけます。金 義貞
◇おしらせ‥第9回 国語と日本語の連携を考える会 ほか
◇刊行物のお知らせ‥「21世紀の「日本事情」」第3号 ほか
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■ 研究室より ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
□新年おめでとうございます。
 昨年は修士課程発足に伴い,激動の1年でした。
 言語文化研究室では,それぞれの研究成果を叩き台とした,苦しくも愉し
い議論の広場にしたいと思いますし,また,それは,将来に向けて,新しい
知の刃を鍛えるための熱き溶鉱炉にもなりうるものだと確信しています。今
年は,より一層の充実を求めて,凛とした教育研究姿勢をめざしたいと思っ
ています。
 今年もRLCをどうぞよろしく。
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□日本語教育とは何か(6)―母語を超えるという思想
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 1986年春,留学生のための日本語教育にかかわりはじめたときの,わ
たしにとっての,一つのキーワードは,「母語の相対化」だった。日本語を
第二言語とする人々への日本語教育が日本語を母語とする者の言語観に影響
を及ぼすという,この概念は,国語学・日本語学をめざすものにとってきわ
めて魅力的なものだった。それは,一方で,「日本語とは何か」という課題
の答えを出すための環境に研究者としてのわが身を置く幸せであり,他方,
職業としての日本語教育がその生きた環境を日々のクラスの中で用意してく
れるだろうと考えたからである。
 日本語母語話者にとって,母語としての日本語はいわば宿命的なものだ。
もちろん,これは日本語に限らない。すべての言語は,その言語を母語とす
る人間にとって宿命的なものだ。その宿命からわたしたちは逃れることはで
きない。しかし,その宿命を宿命として引き受けつつ,母語を客観的に観察
し,相対化することで,自らの言語生活は,新しい地平をめざすことができ
るのではないか。それは「母語の相対化」であると同時に,いわば「母語を
超える」ということに繋がるはずだ。これが第二言語としての日本語教育の
世界への入り口で私の漠然と考えたことだった。
 しかし,宿命としての母語を客観的に観察し,相対化することで,いわ
ば「母語を超える」ということがどのように可能なのかを従来の言語構造研
究から見出すことはきわめて困難だった。それは,思考と表現の往還関係と
密接にかかわる部分にこそ,言語運用のむずかしさがあり,それは従来の言
語構造研究では踏み込むことのできない領域だからだった。さらにそれは,
たんなる談話行動を超えた学習者の問題意識にもかかわっており,今までの
方法ではこうした問題意識のありかたを解いていくことは不可能であるよう
に思われた。
 そして,この問題は,「言語が思考を規定する」としたサピア=ウォーフ
の仮説への疑問をそのまま引きずる形で,今回の私の研究課題となった。「
母語を超える」ことは,人間にとって不可能なのか,という課題である。も
ちろん,現実に母語そのものを捨てるという意味で,もう一つの言語をまっ
たき母語とすることは困難である。しかし,その母語を極力対象化し,自ら
の思考をより緻密に練り上げていくことは可能であろう。これこそが,「母
語を超えようとする」ことなのではないか。しかも,この挑戦を果敢に行っ
ていく努力の只中においてはじめて母語は母語として意識され,私たちの思
考の鍛錬に応えてくれるものになるはずだ。そうであるとすれば,この「母
語を超えようとする」努力は,ことばによって考え,ことばによって生活す
るすべての人間に当てはまる普遍的な営為なのではなかろうか。このように
考えるところから,私自身の課題の展開は始まったといえる。そして,それ
は,総合体としてのことばの文化による活動そのものの活性化であり,それ
こそがまさに言語文化活動としての「総合活動型日本語教育」の課題だった
のである。
 以下次号をお楽しみに!                   (ほ)
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[新刊予告]
 著者15年の「日本事情」研究の集大成。ことばと文化を結ぶ,画期的な日
本語教育原論。
◆『日本語教育は何をめざすか』◆細川 英雄著 明石書店◆2002年2月刊行
予定
◇ http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/akashi.htm ◇
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■ 院生からひとこと ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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□「私」の「文化」を発信しつづけます。
□日本語教育研究科1年(01秋期生) 金 義貞
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 私は今まで持っていたものの定義から,すべてを考え直さなければならな
い立場にたたされた,去年の9月から…。私は゛日本語をより効果的に教え
る方法はないのかな…゛,自分の専攻が映画であったため,゛映画を利用し
た日本語教育,その中でも特に日本文化の教育の方法を研究しよう゛と漠然
に考え,ここ早稲田の日本語教育大学院に入った。しかし,結論から言う
と,私は入るところを間違えたのだ。というのは,私は普通の日本語教育を
考えていたからだ。そこへ飛んでくる質問…゛金さんが考えている「普通」
は何ですか?゛゛「日本文化」ってなんですか?゛゛金さんはなぜ日本語教
育を考えていますか?゛そこで,私は確かにこう答えたと思う。゛「普通」
って,普通ですよ。その…ええっと…その辺にあるような…。゛゛日本文化
は日本の伝統的な…生活とか…その中で…あのう…゛もちろん,答えになっ
ていない。当然なのは,そういうことを今まで考えたことが一度も無かった
からである。発言するたびに質問のシャワーを浴びながら一生懸命に答えを
探してきた,「私」だけの答えを。しかし,今は入るところを間違えてよか
ったと思う。とても大変ではあったが,少なくとも今は,人から渡された答
えではなく,「私」の問題として考えることが,少しできるようになったか
ら。
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◆ 「総合活動型日本語教育」への疑問,質問に答える ◆
◆ 早稲田大学大学院日本語教育研究科言語文化研究室 ◆
 □□ http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/qanda.htm
 □□ 当言語文化研究室で設計した「総合活動型日本語教育」に関して
 □□ 今までにいただいたご意見,ご質問に対する私の考えを述べまし
 □□ た。ご意見やご質問をお寄せいただければ幸いです。
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■ おしらせ ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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開 催 迫 る !

□第9回 国語と日本語の連携を考える会
 http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/semi.htm
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来聴自由! 事前申し込み等不要です。みなさまふるってご参加ください。
●テーマ:自立を育てる言語教育
●期 日:2002年1月26日 15:00-18:00
●会 場:早稲田大学22号館(黄色いビル)
●話題1:Critical Thinkingからパラグラフ・ライティングへ
     加納なおみ(東京水産大学)
●話題2:自立を支援する ―ジェンダー・センシティヴの総合的教育実践
     を手がかりに
     飯田睦美(山梨県増穂南小学校)
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今年はベルリンで 会いましょう!

□ドイツ語圏 大学日本語教師会 第8回 2002年 ベルリン・シンポジウム

●期日:2002年3月22日(金)〜24日(日)
●テーマ:グローバル化時代の『日本語教育・日本事情教育』─ 理論と実践
●招待講師:細川英雄(早稲田大学日本語研究教育センター・教授)
●協賛:日独ベルリンセンター Japanisch-Deutsches Zentrum Berlin
 連絡先  Dr. Yoriko Yamada-Bochynek, 
     e-mail: yayo@zedat.fu-berlin.de

注 目 !
■このシンポジウムのための参加ツアーを大学院の張さんが企画中です。参
 加を考えていらっしゃる方,下記に連絡してみてください。
 日本語教育研究科(01秋期生)
  張 珍華(チャン・ジンハ) <changhwada@hotmail.com>
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□言語教育国際シンポジウム
□コミュニケーションにかかわる言語能力 ― テスト開発と測定・評価 ―
 パネリスト:ライル・F・バックマン博士ほか
 2002年3月21日(木・祝日) 学術総合センター(千代田区一ツ橋)

□言語能力測定に関する講演会
□「コミュニケーション能力をどう測るか:現状と展望」
 講演:ライル・F・バックマン博士(カリフォルニア大学ロサンジェルス
    校教授)
 2002年3月23日(土) 国立オリンピック記念青少年総合センター(渋谷区
 代々木)

□言語能力測定に関するワークショップ
□「テストの設計と作成」
 講師:ライル・F・バックマン博士
 2002年3月24日(日) 学術総合センター(千代田区一ツ橋)

■以上の参加申し込みは,下記まで。
 〒101-0065 千代田区西神田2-4-1東方学会会館2F (社)日本語教育学会
 FAX:03-5216-7552 E-mail:nkg@mb.kcom.ne.jp
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□横浜市国際交流協会 主催
□講座「共に生きる地域をめざして PART2」(あと2回。各回申し込み制)
□http://www.yoke.city.yokohama.jp/
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●第1回講座(すでに終了)
●第2回講座(※申し込みは1月7日〜上記方法で受付。先着順。)
期日: 1月27日(日)14時〜16時
会場: 横浜国際交流ラウンジ(産業貿易センタービル9階)
内容: 池上摩希子氏(中国帰国者定着促進センター,『子どもメール』担
    当)による講演など。質疑応答あり。
定員: 50名(先着順)
費用: 500円
●第3回講座
期日: 2月23日(土)13時半〜16時
会場: 横浜国際交流ラウンジ
内容: とよなか国際交流協会「子どもメイト」,川崎市のポルトガル語母
    語学習グループ,横浜市内の補習教室の実践報告など。
定員: 50名(先着順)
費用: 500円
(財)横浜市国際交流協会(YOKE)
http://www.yoke.city.yokohama.jp/
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毎回お届けする日本語教授レシピは楽しい授業にするためのヒント
がいっぱい!また,日本語や日本語教育,日本文化などに関する様
々な疑問・質問・悩みについても語り合います。日本語や語学教育
などに関心のある方,是非ご参加ください!(^.^)ノ
      http://www.kfcs2000.com/f/index.html
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ルビュ言語文化(RLC)では,
日本語教育関係のメルマガやホームページとのリンクを積極的に推
進しています。
このメルマガとの連携に興味のある方,お便りください。
      発行責任者:細川英雄 hosokawa@mn.waseda.ac.jp
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□アルク「月刊日本語」2002年1月号 発売
□特集「日本事情 あなたはどう教えますか?」
 ・日本語学習におけるコミュニケーションと社会文化行動
   ―60年代からの試みと現在の課題       J.V.ネウストプニー
 ・言葉と文化を結ぶ地平―総合活動型日本語教育のめざすもの 細川英雄
 ・「日本事情」研究の昔と今               牲川波都季
 ・日本事情の授業に潜入―佐々木瑞枝,小田切隆,泉史生ほか
 ・日本事情に関する参考文献等,盛り沢山の情報が一杯!
□http://www.alc.co.jp/gn/
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□「21世紀の「日本事情」― 日本語教育から文化リテラシーへ」第3号
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 今,最も新しい「日本事情」研究の専門誌です。最先端の理論と実践が満
載,この雑誌を知らずして「日本事情」はもはや語れません。くろしお出版
刊。全国書店にて好評発売中。投稿熱烈歓迎。
http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/21c.htm
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□「論集ひととことば」創刊号 刊行
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 大学院日本語教育研究科開設に伴い,従来の「ひととことば」(ひつじ書
房発売)を一新し,当研究室での活動を中心にした電子媒体による新方式の
交流誌を刊行します。半期1冊のペースで,大学院生のレポート等を掲載し
ます。内容は,HPのPDFで見られます。乞アクセス。
http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/htkt_jn.htm
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 発行日:2002年1月10日(毎週木曜日発行)
 発行者:言語文化研究室
     〒169-8050 新宿区西早稲田1-7-14
     早稲田大学大学院日本語教育研究科
 編集責任者:細川英雄
     http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/
 配信システム:まぐまぐ
     http://http://www.mag2.com/
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 登録,解除の手続きは,
     http://faculty.web.waseda.ac.jp/hosokawa/mmaga.htm
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(c) 2001 Hosokawa, H. Lab. 無断転載を禁じます。

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