八ヶ岳アカデメイア――細川英雄の早稲田大学での担当クラスの記録大学院担当クラス

日本語教育学研究法「研究計画の設計と方法」

2004年度春学期レジュメ

  1. 論文は誰のために書くか
    • 自己把握と他者提示
  2. 論証の3原則: OAI
    • O: 観察(Observation)
    • A: 分析(Analyse)
    • I: 解釈(Interpretation)
  3. 研究としての目標
    • テーマを自分の問題として捉えているか
    • さまざまな立場や意見をどのように取り入れているか(データ・先行研究・他者コメントなど)
    • 動機から結論までの一貫性・論理性
(1)(2)(3)
自己把握 O. 問題関心(いろいろな興味・関心)
A. 具体例(なぜこの問題に取り組むのか)
I. 問題意識(テーマ設定)
動機固め(テーマを自分の問題として捉えているか) I期(1)-(4)
O. テーマと仮説
A. 部分データ分析(パイロット調査)
I. 解釈
O. テーマと仮説
A. 先行研究分析
I. 解釈(従来の研究のどこをどう越えたか)
「知りたい,聞きたい,調べたい」はダメ
資料(データ・先行研究)収集とテーマ設定 (さまざまな立場や意見をどのように取り入れているか) II期(5)-(9)
【データの完備・調整】
恣意性の排除
O. テーマと仮説
A. 全体データ分析(データの全体像)
I. 解釈(固有のデータから何が言えるか)
III期 (10)-(12)
【論文のオリジナリティ】
自分にしかできない研究
他者提示 O. テーマ設定(先行研究分析結果を含む)
A. 論証(全体データ分析)
I. 解釈(結論)
枠組みの決定 (他者とのインターアクションによるグレイドアップ)
【他者とのインターアクション】
演習,オフィスアワー・・・
IV期(13)-(15)
第1章 0. テーマ設定(先行研究分析結果を含む)
  1. 問題の設定
  2. 研究の背景
  3. 本稿の仮説
第2章 A. 論証(全体データ分析)
  1. 資料の位置づけ
  2. 分析
  3. 考察
第3章 I.結論
  1. 本稿で明らかになったこと
  2. 本稿で明らかにできなかったこと(今後のテーマを含む)
あとがき 反省と今後の課題(論文作成過程で考えたこと)
論文の構成(動機から結論への一貫性と他者を説得できる論理構築へ)

修士論文「教室活動におけるコミュニケーション能力育成についての研究」の製作過程―Hさんはどのようにして実践研究に取り組んだか

  1. 日本語学校で教えたとき,文法について質問され上手に答えられなかった。
    → 体系的な理論研究への志向
    → 大学院進学
  2. 「総合活動型日本語教育」実践研究に参加。クラス設計から具体的支援や評価の方法を観察。
    → コミュニケーションとは何か,について考えるようになる。
  3. 理由:クラスの中で学習者が自分の考えていることを自由に発言している(日本語学校ではありえなかった)。ただ,言いたいことが分からないことも時折あった。しかし,担当者はほとんど訂正をしないで,内容的な質問をするだけ。それなのに,学習者がレポートを書き直すうちに内容的な質とともに誤用も減って,言いたいこともはっきりしてきた。この実践に実習生として参加して,本当のコミュニケーションをしたという実感が湧いた。
  4. 以上のことから,「日本語教育におけるコミュニケーション能力育成とは何か」というテーマで実践的な研究をしたいと考えるようになる。
  5. まず実践研究の教室データから自分の気になったところを切り取り,データとして分析してみる。ここで起こっている「コミュニケーション」という活動を教室の対話の中から探ろうとする。教室での学習者との話し合いや学習者間のやり取りで対話が深まり,学習者の「言いたいこと」の表現プロセスが次第に姿を現してくる。
  6. 一方で,「コミュニケーション」についてどのような教育研究が行われてきたかを雑誌「日本語教育」(日本語教育学会)を中心に調べてみる。その結果,60-70年代は文法能力が中心だが,80年代ごろから「社会文化能力」に関するものが出はじめ,90年代になると,学習者自身の発見に焦点を当てたものが現れることがわかった。
  7. 前述(4)で行ったデータ分析の基準となる教室データについて,1学期間の全体の枠組みで捉えなおすために,全記録データの文字起こしを行い,時系列にそろえた縦断的データを作成する。思いつきの場面や気に入った箇所だけを取り出すのはダメ,と担当者に指摘されたため。
  8. この(7)のデータをもとに,教室におけるインターアクションの状況を記述し,時間軸に沿ってその推移を一覧表にしてみる。この一覧表を何度も眺めては,面白そうなところをデータにもどって検討した。
  9. 検討するうちに,学習者のレポート内容の質の深化と教室での発言に関係がありそうだと気づいた。このことを研究室のオフィスアワーで話題にすると,ある先輩がおもしろそうだと言ってくれた。
  10. そこで,(8)のデータをもとに,「コミュニケーション能力とは何か」というテーマ軸を立て,その軸に沿って,学習者のレポートや意見に変容があったところをピックアップし,その原因を分類・分析してみた。
  11. この結果,コミュニケーションが起こったと指摘できるところは,学習者の思考が深まり,その成果が表現として表われているところであることが判明したため,これをデータから得られた中間的な結論として記述することとした。
  12. さらに,この解釈が,(6)で調べた先行研究分析から得られた知見とどのようにかかわるかを確認したところ,従来の日本語教育では,学習者の思考の深まりと表現の的確性との関係について言及したものがほとんどないことがわかり,この視点を論文の中心にすえて全体の構成を考えてみることにした。
  13. 演習やオフィスアワーで,以上の結論について研究室の仲間と意見交換し,いろいろなコメントをもらうことができた。動機と結論を入れ替えてみて,筋が通るかどうか確認するようアドバイスを受けた。データの切り取り方や参考文献の扱いなどについてもさまざまな意見をもらって,何度も書き直した。
  14. 研究室主催の研究会で発表の機会をもらったので,一番言いたいところを10ページ程度(40字×40行)にまとめ,口頭発表をし,いろいろな人にコメントをもらった。
  15. 論文の章立てを決め,さいごに「あとがき」を書いて,修士論文を仕上げた。

関連文献

  • 細川英雄(2002).『日本語教育は何をめざすか――言語文化活動の理論と実践』明石書店.
  • 細川英雄(編)(2002).『ことばと文化を結ぶ日本語教育』凡人社.
  • 細川英雄(編)(2003年4月~2004年3月)大学院に行こう『月刊日本語』アルク.

参考

講義後,受講生からいただいた感想