八ヶ岳アカデメイア――世界各地での実践・講演
九州日本語教育連絡協議会研修会
「活動型日本語クラスの実践―より豊かな日本語教育をめざして」
- 開催日時:2009年12月19日(土)14:00~17:00
- 会場:九州大学 箱崎・文系キャンパス・文系地区21世紀交流プラザ
- 講師:細川英雄(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
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今回の研修会では,参加80名のうち,73名の方がアンケートの回答をくださいました。ありがとうございました。73名のうち,日本語教育経験のある方が70名(日本語学校44名,地域の日本語教室14名,大学や専門学校30名,その他8名,記載なし2名*複数回答あり)いらっしゃいました。アンケート集計のなかから,記述部分を主に抜き出し,以下にまとめてみました(一部編集上の手を加えたところがあります)。
なお,最後に講師としての内省を記しましたので,あわせてご覧ください。
内容について
評価
内容についての評価は以下の通りです。
- よかった60名
- まぁまぁ11名
- つまらなかった1名
- 記載無し1名
a.「よかった」とは?
- 「日本語教育」への問い,「考える」ことの大切さを知ることが出来た。
- 新しい知識でしたし,実際に教室活動にどうにかして取り入れられそうでしたので,もう一度自分の中で整理して活かしていきたいと強く思いました。
- 日頃,試してみては納得できなかった授業の進め方のヒントを得ることが出来ました。
- いろいろ考えさせられました。とても勉強になりました。
- 集中して日本語教育について考えることが出来た。(以下,略)
- 参加者とのやり取りの時間も多く,他の参加者の考えも知ることが出来た。これも「活動型」なんだな,と思った。
- いろいろなことを考える機会になりました。
- いつも文法積み上げ型の中で教えている環境なので,活動型は目からうろこでした。
- 書くことで自分を取り戻すことが出来る,という考え方。
- 雑談をよく学習者とするが,このサイクルと似ている。
- 自分が漠然と思っていたことを裏付けていただいた気がした。今後積極的に取り入れていきたい,新しい方法も学びました。
- 普段行っている授業について,違う切り口から見ることができた。
- 様々な形の日本語教育法があることを改めて感じました。
- 普段漠然と思っていた「これでいいのか」という疑問が少し解決されました。自分の授業を考え直してみます。
- 実践的な話だけではなく,歴史的背景や理論を学べたから。
- とにかく考えさせられました。
- いろいろ考えることが出来た。また,「教育」を主眼としたテーマだったこと。
- 本で読んでいたことも実際に聞くことができてよかった。
- 考えることが深まりました。疑問に思うことも答えていただきました。
- 自分の教室活動を思い起こしながら,現実的に問題を考えられた。
- 自分の教室活動の問題点を見つけられたのでよかった。
- 活動をする上で,活かしてみたいと思う内容だった。
- 実践的過ぎるのではなく,背景,理論面なども紹介していただけたので,とても興味深かったです。
- Sからの発話を引き出す授業のきっかけがわかりました。OPIと共通。
- 考え方が全く新しい。
- 読んだだけでは分かりにくかったのですが,質疑応答を通して理解が深まった。
- 自分が,いかにステレオタイプに陥っているかが分かりました(日本・日本語教育などに関して)。
- 「活動型」の授業の運用の仕方,どういう思いで実践されているのかなど先生の考えを伺うことができた。
- 参加者で話すこともでき,情報交換の場ともなった。
- 実践の具体的内容を知ることが出来てよかった。どのように取り入れるか,今後の課題です。
- 学習者主体の活動という点が,大変興味深く,是非実践してみたいと思いました。
- このような研修会に,初めて参加したのですが,とても刺激的でした。(以下,略)
- これから自分は,どのようなことをポイントにして教えていきたいかを考えさせられます。
- 頭の中にたくさんの「?」マークが出てきて,多くのことを考えさせられた。まだ答えは見つかりませんが・・・
- 日頃の学習活動を始め,教師の在り方,学習者との関わり方などたくさん学ぶことがあり,まさしく目からうろこでした。
- 今日はその時間がたくさんとられていて,自分の頭で考えることが非常に多かったです。時間が経つのがあっという間でした。(以下,略)
- 活動型とはどういうことか,実感できたように思います。
- 自分が日頃教えている場所とは全く違う環境があるんだな,というのがわかった。
- 言語学習の4つの技能について改めて考えさせてくれる内容だった。
- 従来の言語学習をひっくり返すというか,再考するというか・・・新鮮でした。
- できるだけ自分が「教える」よりは学習者が自分で動く環境作りを目指してきましたが,なかなか難しい・・・と思っていました。
- 改めてもう一度やってみようと意欲が湧いてきました。
- 日本語教育に対する考え方や印象を根底から覆されたように思います。
- 先生がなさっていることが具体的によく分かり,興味が持てました。自分でもやってみたいと感じました。
- 考えない日本語教師・・・だったと自負できた。もっと考えていこう,現実にできることから考えていこうと思う。
- 日本語学校で実践していくには,なかなか難しいかと思いますが,教師として理念を持っていたいです。
- これまでメールマガジンや論文,お話を伺ってきたが,このような,先生一人のまとまった時間でのお話がなかった。これである程度すっきりしました。
- 学習のための教室活動が,実は教師の活動につながるということを改めて気づかせていただいた。
- 他の人と話をしたり,質問疑問を共有して,いろいろな考え方に触れることが出来た。
- 最初はなんだか内容がとらえにくいと思っていましたが,講座を通して固定的に物事を捉えない先生の考え方や態度が聞けて勉強になりました。
- パリのときより分かりやすかった。
- 新しい教室スタイルを学べて非常に参考になった。
- 積み上げ式と違う方式を知ることが出来た。
- 日頃考えていることが根本から揺さぶられました。実際に応用できるかは分かりませんが,常に頭の隅に活動型のクラスのことを置いておきたいと思います。
- 日頃の授業について考える(振り返る)ことができました。
- 評価の仕方も一緒に考えるのでは学生は主体的に関わらざるを得ませんね。学生のやる気が感じられます。
- 自分の授業を振り返る材料となった。
- 実践方法について考えられなかったが,話を聞いて,試してみようと思えた。
b.「まぁまぁ」とは?
- はっと気づかされる点は多々あったが,現状のクラス(中国人のみ20人)でどのように落とし込むことが出来るのか,ぴんとこないまま終わった。
- 概論ではなく,身近な具体例をたくさん聞きたいと思う。
- 自分の今の環境と置き換えて考えると,あまりにもかけ離れていて少し分かりにくかった。
- 最後の考えない日本語教師という言葉で内心はっとさせられました。
- 授業の実際が分かりにくかった。もう少し映像や教材,シラバスなど見せていただけるとよかった。
c.「つまらなかった」とは?
- 大学における日本語教育が中心なので,赴任者の家族等の多い私たちの教室では実施が難しい。
- 講師の先生の意見の主張だけでなく,会場の人の意見も聞きたかった。
- いまいちぴんとこなかった。
- 質問できなかった。突っ込んだ議論が聞けなかった。
その他,お気づきのことがあればひとこと
- 最後の「活動の公開」というのは,大変共感できました。(中略)「公開」しない教師が多く,1つのやり方に長くこだわりすぎていると思うからです。
- 細川先生の新しい考え方を聞くことができてよかったのですが,先生の現場と私の現場があまりにも違いすぎて,正直お話を伺う前の気持ちとは違っています。(以下,略)
- ビデオ(授業の様子)をもう少し長く詳しく見たかった。(具体的なイメージが湧きにくかったので)
- もう一歩,実例,実践のビデオが見たかった。
- 会場準備などありがとうございました。堅苦しくなく打ち解けた中で考えることが出来ました。
- 九大は広いので,場所の地図も一緒に送って欲しい。
- 学生の質,レベル,自身の力を考えるとまだまだ実践まで時間がかかりそうですが,まずは,自ら考えて授業をすることを心がけたいと思います。
- 今回は質疑応答が長すぎた気がします。もう少し先生の講義が聞きたかったです。(底辺を支える授業について)
- 社会的・文化的判断を押し付けないことは分かるが,学習者から求められることが多い。「日本ではどうですか」など。個人的判断では,と全て答えるべきですか?
- 学習者は韓国では~,中国では~です。ということには,わたしたちはどう受け止めればよいのか,と疑問に思いました。
- 講演+グループディスカッション+質疑応答という形式が講演についてより深く考えることができたように思います。まさにこれが細川先生のスタイルなのだと実感しました。
- 普段の自分の授業を振り返るよい機会になりました。
- まだステレオタイプの呪縛から抜け出せていないのかも知れません。
- 留学試験や能力試験対策に追われがちな日本語学校で,「どのようにこのような活動を取り入れて言ったらよいか,考えさせられます。
- 質疑応答の時間がたくさんあり,とても分かりやすかったのですが,活動のビデオをもう少し見たかったです。
担当としての反省と振り返り
今回の担当を通して,多くの方からご意見をいただきありがとうございました。
大方の賛意を得られたのは,これまでの日本語教育の歴史的な経緯を丁寧に説明したためかもしれません。ただ,もう少し会場内でのやり取りを活性化させる方法もあったと反省しています。とくに,ビデオの説明はもう少し丁寧にやるべきだったと思います。いただいたご意見の中にも多く見られますが,それぞれの現場の違いをどのように考えるかが今後の課題だと思います。最終的には,現場の違いを強調して個別性にいたるのではなく,どのような現場であっても,基本的な理念は同じというスタンスを作りたいと思っています。
今後の研修会への希望として,初級の学習者が積極的に発話できるような授業・活動について具体的な内容を知りたいという要望がいくつか寄せられました。とくに,ゼロビギナーとの具体的なやり取り等については,どのようにしたらいいのかというような質問もありました。本来,日本語教育の直接法は,学習者とのやり取りから始まるものです。これは戦前からの日本語教育の歴史を見ても明らかです。しかし,近年の日本語の教室を見ると,まず文型ありきで,それをどう教えるかというところから始まっています。おそらくは,70年代後半から80年代にかけての日本語学習者の急増が,「文型ありき」という土壌を形成したのではないかと考えています。こう考えると,戦後の日本語教育は,むしろ後退してしまったのではないかという印象さえ持たざるを得ません。その意味で,総合活動型日本語教育が決して特別な形ではないことは,初級の実践の具体例を提示することでしか納得が得られないのかもしれません。これからの日本語教育には,直接法の原点に帰る議論が必要だろうと思っています。
今回の研修会では,大勢の方々に参加していただき,短時間ながら,充実したやり取りができました。主催の九日連をはじめ,会場校・九州大学の小山悟さん,司会の横溝紳一郎さん(佐賀大学),機器担当の山田智久さん(佐賀大学),そして共催のスリーエーネットワークに厚く御礼申し上げます。(細川英雄)