八ヶ岳アカデメイア――既刊一覧シリーズ「考えるための日本語」

考えるための日本語――問題を発見・解決する総合活動型日本語教育のすすめ

早稲田大学日本語研究教育センターで1998年から行ってきた「総合」。

そのクラス活動を中心にして,その理念と設計および実践例を徹底紹介。さらに,ゼロビギナーへの「総合」や,国語教育への応用,また,日本語学校と地域日本語教室との連携についてなど,今後の展開の可能性まで網羅した総合活動型日本語教育関係者必携の一冊です。

目次

はじめに

  • 「考えるための日本語」へようこそ 細川英雄

第1章 「考えるための日本語」のめざすもの

  • クラス活動の理念と設計 細川英雄
  • クラス活動の目的と展開 新井久容
  • クラス活動における「学習者主体」の意味 牛窪隆太

第2章 「考えるための日本語」の実践と方法

  • クラス活動の実践と方法―2名の学習者の活動を通じて 三代純平
  • 相互クラスで学習者は何を考えたか―学習者Dの分析から 今井なをみ
  • クラス活動における支援と教師の役割 塩谷奈緒子
  • 学習者の完成レポート
    • 日本の建築と私 学習者M
    • 写真と私 学習者D
    • 見た目の私と実の私 学習者A

第3章 「考えるための日本語」の可能性と広がり

  • ゼロビギナーへの試み 崔允釋・張珍華
  • 日本語と日本事情の統合 三代純平
  • 国語教育への活用 森元桂子
  • 日本語学校・地域の日本語教室から 武一美

おわりに

  • 共に育んでいく「考えるための日本語」ーNPO法人「言語文化教育研究所」から 張珍華

はじめに ― 「考えるための日本語」へようこそ

ことばを学ぶとはなにか,そのことによって学習者たちはどのように成長するのか,という問いは,言語教育に関わる者にとっての最大の課題でしょう。

この「考えるための日本語」では,ことばの教育とは,さまざまな社会形成の中で他者とのコミュニケーションによって自己を表現する力をつけることであると考えます。

このような自己表現の力をつけるためには,まず総合的な身体活動としての言語活動が必要でしょう。なぜなら,言語活動とは,聞く・話す・読む・書くという四領域の力が総合的に絡み合って成り立っているからです。この日本語による総合的な身体活動の教育/学習を「総合活動型日本語教育」と呼びます。

この総合活動型日本語教育によって,「考えるための日本語」がめざすものは,問題を発見し解決する学習者のための学習です。この問題発見解決学習を支えるものは,学習者一人一人の思考と表現の活性化と言えるでしょう。思考と表現が活性化すれば,学習者一人一人が自分のことばで生き生きと自分の関心事について教室で語るようになります,つまり学習者は自らの表現の翼を大きく広げようとするのです。

こうした教室活動は,学習者自身が自分を自分として確認できるような,もっと簡単に言えば,「ここにいてよかった」という自分の居場所を学習者一人一人が持つことを待望しているのです。そうした環境設定を教師の役割として行うことが,この「考えるための日本語」のめざすものだといえます。

こうした考えに賛同してくださる方へ向けて,この「考えるための日本語」は編集されています。

第1章では,クラス活動の理念と設計を中心に,その目的と展開を諸実践との比較をもとに記述し,クラス活動における学習者主体の意味について考えます。

第2章では,クラス活動の実践と方法として,その目的と具体例を挙げ,さらに,「総合」クラスを例とした学習者における思考の表現化のプロセスを学習者の分析から検討し,クラス活動における支援と教師の役割としてまとめます。

第3章では,この活動の可能性と広がりとして,ゼロビギナーへの試み,日本語と日本事情の統合,国語教育への活用,日本語学校・地域の日本語教室での日本語学習の場からを具体的に解説します。

最後に,こうした「考えるための日本語」の活動を,大学から地域・社会へ発信するための基地としての研究所活動の視点から,この活動の意義について提案します。

この「考えるための日本語」によって,学習者一人一人の自己表現の実現をめざして,担当者一人一人が自らの立場をしっかりと踏まえることができ,その設計と支援によって,一つ一つの教室活動が大きく変容することを期待します。

なお,本書は早稲田大学2003-2004年度特定課題研究助成(共同研究)「問題発見解決学習としての総合活動型日本語教育の理論と実践」(課題番号2003B-051)による研究成果の一部です。

執筆者を代表して 細川英雄