八ヶ岳アカデメイア――解説

「総合活動型日本語教育」とは何か――「総合」のめざすもの

表紙:「総合」の考え方と方法本書(『「総合」の考え方と方法』)は,早稲田大学日本語研究教育センターにおける日本語クラス「総合」の考え方と方法について記述したものである。第I部に,この「総合」の基本的な考え方を示し,第II部では,初級後半から上級にかけての,各担当者による実践の試みを例として挙げ,こうしたクラスを新しく担当する場合等の参考となるべく編集されている。

本書の作成にあたり,担当者は定期的な研究会を持ち,日夜,この「総合」の実践に工夫を重ねた。ことばの教室を広く社会へ向けて開放することをめざす本書は,まさに実践の中から生まれた研究の成果である。それは同時にカリキュラム改革による授業科目運営の問題にとどまらない,従来の日本語教育の殻を破る新しい動きとして,これからの日本語教育における「総合活動型日本語教育」の位置づけを図ろうとするものでもある。

こうした教室実践は,もとより試行錯誤の連続である。あえて実践例集の形で提示し,大方のご教示・ご叱正を仰ぐものである。

ここで,この「総合」の成り立ちについて制度上の問題も含めて簡略な説明をしておこう。

全学的なカリキュラム改革の動きの中で,早稲田大学日本語研究教育センター(以下,日本語センター)では1994年ごろから留学生の日本語教育のための新しいカリキュラムへの検討を開始した。ここでは,いわゆる留学生別科のほかに,全学部・大学院の所属する留学生で日本語教育を必要とする学生のためにも日本語講座を開講しており,急増する留学生とその学習ニーズの多様化に合わせて,量的にも質的にも対応できる一元的な総合カリキュラムが必要だったためである。

具体的には,留学生の日本語学習歴がきわめて多様で,その領域ごとの能力にかなりのばらつきが見られるため,分野別・能力別クラス編成を試みた。これは,従来1回のクラス分け試験によっておおよその日本語能力を判定し,たとえば初・中・上級というようなクラス分けを行い,一定期間はその能力クラスに所属させる方法が日本語教育では一般的であり,早大日本語センターにおいてもそうした方法を長年とってきたが,このカリキュラム改革によって,各分野別のプレイスメント・テストを行い,それによって技能別に能力に応じたクラスに所属するようになった。

この方法と従来の方法との比較に関しては一長一短があり,単純にどちらがいいとも決められない。しかも,2001年度から設置された大学院日本語教育研究科では,この分野別・能力別クラス編成が大学院生のための見学クラスとして機能し始めた。まだ,始動しはじめたばかりであるため,ここでそのカリキュラムそのものをめぐる是非や効率を論じることは差し控えたいが,1998年度から施行されたそのプログラムの概要はおよそ次の3通りである。

このカリキュラムでは,ⅠからⅧまでのレベル別のクラスを置くとともに,そのレベルをさらに曜日に振り分け,月曜から木曜までをそれぞれ聴解・読解・口頭表現・文章表現の4技能にあて,金曜日には「総合」というクラスを設定し,細川が金曜日「総合」クラス全体のコーディネーターを担当することになった。なお,初級クラス(I・II)に関しては,従来どおりの方式をとっている。この「総合」の位置づけについては,さまざまな議論があったが,99年4月からは,第I部で述べるような新しいコンセプトのもとで,「総合」クラスの運営を開始したのである。

総合の目的 (学習者向けに配布されるパンフレットに掲載されるもの)

「総合」のクラスでは,半年を通して,具体的な目標を持った,やりがいのある活動を行います。参加者一人一人が日本語によるさまざまな活動の中で的確な自己表現力を身につけ,限られた期間にその目標を達成することによって,それぞれの問題を発見し解決する力をつけてほしいと思います。