八ヶ岳アカデメイア――細川英雄の早稲田大学での担当クラスの記録大学院担当クラス

細川研究室での指導方針

細川英雄研究室へようこそ

当研究室は,参加者それぞれが自分にとっての言語教育とは何かを考え,一人ひとりが固有の実践の場を創りあげることをめざしています。それは,固有のクラス活動を設計・組織化・支援できる人材を育成する活動でもあります。

明確な問題意識を

自らの教育実践を構想するためには,まず明確な問題意識が求められます。

インターアクション

しかし,問題意識というものは,当初から明確であるわけではありません。その問題意識はさまざまな他者とのインターアクションによって,次第に明確になるといっていいでしょう。したがって,参加者は,当研究室の,溶鉱炉のような,インターアクションの熱い試練にまず耐えねばなりません。そのやり取りが鋭く突き刺されば刺さるほど,本人にとってはつらいものであると同時に,それを乗り越える喜びもまた大きいはずです。この刺激をつらいものとして受け止めるか,あるいは,それを喜びとして受け止めるかは皆さん一人一人の問題です。

論理の共有

次に,そうしたインターアクションを経ることによって,私たちは自らの「考えていること」を他者へ提示することの意味を学びます。自分の考えていること,つまり自らの思想を他者に伝えるためには,他者と論理を共有せねばなりません。この他者との論理の共有がこの研究室で求められる重要な課題です。

そしてオリジナルなテーマへ

このようにして醸成される問題意識は,常に自らがテーマとする問題と自分との関係を見つめるものとなるでしょう。それはテーマを自分の問題として捉えることでもあります。

このことが自覚できたとき,自らの問題意識はきわめて明確になると同時に,その問題の捉え方は,他のだれでもない,自分自身にとってかけがいのないテーマとなるはずです。ここにこそ,あなた自身のオリジナリティが存在するわけです。

研究室を飛び出して

このように,参加者それぞれが自分にとっての言語教育とは何かを考え,その一人一人が固有の実践の場を創りあげることをめざす当研究室では,その理念を大学という狭い範囲に限定せず,より広く,さまざまな人々との連携によって,固有のクラス活動を設計・組織化・支援できる人材育成をめざす活動を行いたいと考えています。

「言語文化教育研究所」(GBKI)の活動もそのひとつです。

すでに修士課程を修了した先輩たちが中心になって,NPOとしての活動が開始されたのは,2004年6月のことです。この研究室での経験を生かした,多くの仲間たちの,自らの思考にもとづいた,果敢な表現活動を期待したいと思います。

言語文化教育における「人はみな同じ,されどひとりひとり異なる」という考え方は,人間としての普遍性をめざしつつ,かつ一人一人の個別性・固有性に注目するものです。世界中どこでも暮らすことのできる,強固な意志と柔軟な姿勢を持った仲間とともに,言語文化教育の未来について議論しませんか。

多くの皆さんの参加を待っています。

修士論文審査に当たっての方針と姿勢

修士論文審査に当たっては,以下の点を重要なポイントして評価の対象とする。

  1. テーマと自分との関係をどのように捉えているか。
  2. さまざまな議論をどのように受け止めているか。
  3. 研究の目的と内容および結論の関係をどのように考えているか。

1.は,筆者の問題意識のありようを問うものである。テーマと自分との関係を論文として記述する以上,自分にとってなぜこの研究なのか,という視点を明確にすることが不可欠であると考える。たんなる一般論として,あるいは他者の言説の範囲を出ないような問題意識の持ちようについては鋭く批判的に評価する。そのためにも,研究の動機をよく見つめ,「私はなぜこの研究なのか」を常に振り返ることが必要。

2.は,従来の議論の中での筆者の研究の位置づけの問題である。日本語教育は,現在,さまざまな学際的な研究となりつつある。この分野において,自分の関連する分野や事柄しか見ない,というだけでは,もはや立ち行かない状況となっている。したがって,「言語とは何か」「コミュニケーションとは何か」「教育とは何か」という本質的な問題を含めた,さまざまな議論をどのように受け止め,それを自分の研究においてどのように扱っているかが重要である。この姿勢が,教育研究者としての資質の問題ともかかわっていると判断する。

3.は,論文としての,論理的一貫性の問題である。研究目的として筆者の主張が明確に記述されているか,そのことがデータの上でどのように実証されているか,そして,結論としての主張が,研究全体の目的として提起した問題の解決として機能しているか,という点である。

以上の3点を中心に,修士論文全体を総合的に判断し,評価することとする。

なお,この評価ポイントは,修士論文審査のために作成したものだが,一般の論文執筆の際にも有効であると考えている。

2006年2月6日  細川 英雄

研究支援心得

1. 研究支援の目的

言語文化教育研究室メンバー一人一人が,学習者の言語活動を支援する言語学習環境設計者をめざすことを目的とし,人が言語・文化を習得するとは何かを考え,その習得のメカニズム解明を追究するとともに,言語学習環境の組織化と支援のための実践とその方法論を体得する。

2. 研究支援の計画と方法

第1期:体験期

言語活動を体験・観察する。

  • 理論研究(水5)理論的枠組みの理解
  • 実践研究(金1)観察と分析
  • 研究講座「言語文化」(水3)体験
  • 「考えるための日本語」(オンデマンド)体験
第2期:分析期

言語活動の観察結果を分析する。

  • 演習Ⅰ 核論文執筆(1)
第3期:解釈期

言語活動の観察・分析をもとに,自らの解釈を形成する。

  • 演習Ⅱ 核論文執筆(2)
第4期:表現期

自らの解釈をもとに,その成果を表現する。

  • 演習Ⅲ 修士論文提出

3. 研究支援の特色

この研究支援のキーワードは,以下の3点である。

  • 一人一人のオリジナリティ
  • 実践からの視点
  • 他者を説得しうる自己表現

第1~4期を通して,具体的な言語活動実践にもとづく日本語教育のための固有の視点を明確にし,研究室メンバー一人一人が,「私」はどのような言語学習環境をつくるのかという実践にもとづく理念形成をめざすことがこの研究支援の特色と言えよう。

先行研究や既成概念に対して常に「なぜ」と問う研究意識から出発し,柔軟な複眼思考による批判精神を自覚するとともに,さまざまなインターアクションを通して,他者を説得し納得させるための論理とそのための確かな自己表現を確立するよう研究支援を行う。

4. 研究支援スケジュール

春入学の場合秋入学の場合
1期7月末「研究法」計画書1期1月末「研究法」計画書
2期10月下旬 テーマ提出(主査・副査決定)2期5月初旬 テーマ提出(主査・副査決定)
2期1月中旬 修士論文中間発表2期7月末頃 修士論文中間発表
3期7月中旬 修士論文計画書提出3期1月下旬 修士論文計画書提出
3期7月末頃 修士論文着手審査(書類審査)3期1月末頃 修士論文着手審査(書類審査)
4期12月下旬 修士論文提出4期6月下旬 修士論文提出
4期2月初旬 審査会(口頭試問)4期7月末頃 審査会(口頭試問)