言語文化教育研究会――過去の記録

四季の講演会:第1回
自分のことばを取り戻す ―「考えていること」を表現する場を求めて

日時
2004年1月30日18:30-20:00
ところ
新宿文化センター4F第1会議室
内容

私たちは常日頃,自分のことばで語りたいと願っています。一人一人の顔を持った,個性にあふれた意見の交換によって,実のあるコミュニケーションを行い,ここにいてよかったという実感を他者と共有したいからです。

しかし,ことばの学習や教育の現場は,必ずしもそうした状況ではありません。その原因の一つには,教師も学習者もともに自分のことばを持ち得ないという不幸な現実があると考えられます。ここでは,そうした自分のことばを取り戻すことの意味とその方法について学習の現場に即して具体的に考えてみましょう。

それは,母語としての国語と第2言語としての日本語を結びつつ,学習と教育を結ぶ学びの場の創造であり,また,ことばと文化の共生の課題でもあるでしょう。

以上のような趣旨に基づき,私たちは,「言語文化教育研究所」の設立をめざしています。講演及び説明会を開催しますので,どうぞご参加ください。

講演のあと,質疑応答及び個別相談等も行います。

自分のことばを取り戻すことの意味

細川 英雄(早稲田大学大学院日本語教育研究科)

私は常日頃,自分のことばで語りたいと願っている。一人一人の顔を持った,個性にあふれた意見の交換によって,実のあるコミュニケーションを行い,ここにいてよかったという実感を他者と共有したいと思っているからだ。

ただ,「私のことば」で語るという行為を実現させるために,マニュアルのようなものが用意されているわけではない。たとえば,教室の活動一つを考えても,自分のことばで語りたいという生徒一人一人の願いは,どのようにして実現することができるのだろうか。そして,「私のことば」で語るという行為を実現させるために,何をどのように考えたらいいのか。

このテーマのために,ここでは次のような手順を踏んで考えてみようと思う。

まず,「私のことば」とは何か。

次に,その「私のことば」で語るとは何か。

そして,そのための具体的な方策はどこにあるのか。

この問題は,大きくいえば,母語としての国語と第二言語としての日本語を結んで言語教育全体を志向することであり,また,教室を学習と教育の交差する学びの場の創造として捉えることであり,そして,ことばと文化の共生の課題を,具体的な意味のあるコミュニケーション活動として捉えなおすことでもあるはずだ。

では,どのような教室が,どのようにして可能なのか。それぞれの学習者への支援やクラスの組織化等を通して,教師は学習者の何をどのように育成すればよいのか。この問題の発見と解決が,ことばの教室の,そして,ことばの教師の課題だろう。

なお,講演会当日は,「自分のことばを取り戻す」教室をめざしたクラス活動の実際を映したビデオをもとに,その教室設計の話をしました。